伝説の時速326.975km/hが蘇る。アウディが再現した「アウトウニオン・ルッカ」、90年前の速度記録車が復活

・1935年の世界最速記録車の復活
・空力技術と軽量構造の結晶
・3年以上をかけた完全手作業による再現
アウディ・トラディションは、1930年代のモータースポーツ史を彩った伝説的な記録挑戦車「アウトウニオン・ルッカ」を再現し、2026年5月にイタリア・ルッカで初公開しました。完成までに3年以上を要したこの特別なモデルは、1935年に世界最速のロードレーシングカーとして名を刻んだマシンを現代によみがえらせたものです。

1935年2月15日、レーシングドライバーのハンス・シュトゥックは、イタリアのルッカ近郊にあるアウトストラーダで飛行スタートによる1マイル速度記録に挑戦しました。アウトウニオン・ルッカは平均速度320.267km/hを記録し、さらに計測区間では最高326.975km/hに到達。当時、「世界最速のロードレーシングカー」として大きな注目を集めました。
この記録車は、1934年のグランプリマシンをベースに開発されました。ベルリン・アドラースホーフ航空研究所での風洞試験を活用し、オープンボディとクローズドコックピットの両方を比較検証。得られたデータを反映し、ヨーロッパのレーシングカーとしては初となる本格的な空力ボディを採用しました。流線形のボディは細部まで研磨され、クリアラッカー仕上げが施されています。ホイールカバーやフィン形状のリアエンド、涙滴型ホイールアーチなどが空気抵抗低減に貢献しました。

搭載されたエンジンは16気筒スーパーチャージャー付きユニットで、当時は約5リッター仕様として343PSを発生。後に1935年シーズン中には375PSへ進化しました。記録達成時には1934年型シャシーを使用しながらも、ボディはまったく新しい空力設計が施されていました。こうした技術的挑戦が、独特の美しさと圧倒的な速度性能を両立させたのです。
今回の再現プロジェクトは英国のレストア専門会社クロスウェイト&ガーディナーが担当しました。歴史的写真やアーカイブ資料をもとに、すべての部品を手作業で製作。特にキャノピー形状のコックピットや先細りのテールエンドなど、複雑な流線形ボディの製作には多大な時間が費やされました。完成した再現車はアウディの風洞施設でCd値0.43を記録しています。

再現モデルには、1936年型アウトウニオン・タイプCと同じ6.0リッターV16エンジンが搭載されています。最高出力は520PS(382kW)、車重は960kg。全長4570mm、ホイールベース2800mmという堂々たるプロポーションを備えます。燃料はメタノール50%、プレミアムガソリン40%、トルエン10%という当時を彷彿とさせる特別な配合です。
アウディによれば、再現車はルッカ仕様だけでなく、1935年のベルリンAVUSレース仕様にも変更可能です。冷却系や換気システムなど一部に実用的な改良を施しつつも、歴史的忠実性を高いレベルで維持しています。
ルッカでのワールドプレミア後、この特別なマシンは2026年7月9日から12日に開催される英国のモータースポーツイベント、グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードで初の動態公開を行う予定です。90年以上前に「速さへの挑戦」を体現した伝説のレーシングセダンが、再びその姿を世界に見せることになります。
【ひとこと解説】
アウトウニオンは、1932年にドイツの自動車メーカー4社、アウディ、DKW、ホルヒ、ヴァンダラーが世界恐慌下で生き残るために統合して誕生した企業です。4つの輪のエンブレムは、この合併を象徴しています。アウトウニオンは特に1930年代のグランプリレースで名を馳せ、フェルディナント・ポルシェが設計したミッドシップレイアウトの「シルバーアロー」は、当時として革新的な構造と圧倒的な速度で知られました。戦後は東西分断の影響を受けつつもアウディブランドが再興し、現在のアウディの技術的基盤とブランド精神の源流として位置づけられています。















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