ポルシェ・トランスアクスルを象徴した「リトラクタブルヘッドライト」の誕生秘話。技術とデザインが生んだ時代のアイコン

【ポイント】
・技術と美しさが融合した時代の象徴
・2種類の開閉機構が生んだ個性
・1990年代半ばに幕を閉じた伝説
ポルシェは2026年6月30日、1970年代から1990年代にかけて販売されたトランスアクスルモデルを象徴するデザインとして、「リトラクタブルヘッドライト(ポップアップヘッドライト)」の開発背景を紹介しました。
ポルシェのトランスアクスルモデルでは、1976年発売の924、1977年に登場した928、1981年発売の944、1991年発売の968のすべてにリトラクタブルヘッドライトが採用されました。当時は空力性能とデザイン性、さらに法規制を両立するための技術的な必然性から、この構造が選ばれています。
モデルによって採用された機構は2種類あります。928はヘッドライトがフェンダー内から前方へ回転して立ち上がる方式を採用。一方、924と944は1969年登場の914と同様に、後方へ回転しながら開く構造となっていました。そしてシリーズ最終進化形となる968では、928と同じヘッドライトユニットが再び採用されています。

デザイン面にも違いがあります。928はヘッドライト収納時でもレンズの一部が見えるデザインであるのに対し、924と944はボディ同色のカバーによってヘッドライトがボンネットと一体化し、収納時には存在を感じさせない滑らかなフロントフェイスを実現しました。これは機能ではなく、美観を重視したデザイン上の選択でした。
1989年から2004年までポルシェのチーフデザイナーを務めたハーム・ラガーイ氏は、当時924と928の開発に携わった若手デザイナーでした。同氏は、当時は空力性能やデザインだけでなく、照明技術と法規制も重要な要素だったと振り返っています。ヘッドライトの取り付け高さには厳格な基準があり、一方で当時の照明技術では大型ヘッドライトほど優れた照射性能を得られました。その両立策として採用されたのがリトラクタブルヘッドライトだったと説明しています。また、開発期間中に928を日常的に運転していた経験から、「非常に大きなヘッドライトだからこそ優れた照射性能を実現できた」と語っています。
トランスアクスルモデルにはメインヘッドライトに加え、バンパー内にも補助灯を装備していました。しかし照明技術の進化により、1996年に登場した初代ボクスター、1997年の996型911では、すべての灯火機能を一体型ヘッドライトへ集約できるようになり、優れた空力性能も維持できるようになりました。こうしてポルシェのリトラクタブルヘッドライトの時代は幕を閉じましたが、長いボンネットから静かに姿を現すその独特の動きは、現在でもポルシェを代表するデザインアイコンとして多くのファンを魅了し続けています。
【ひとこと解説】
ハーム・ラガーイ(Harm Lagaaij)は、オランダ出身の自動車デザイナーで、1970〜2000年代にかけて欧州スポーツカーの造形に大きな影響を与えた人物です。フォードでキャリアを始めた後、ポルシェに移籍し、初代ポルシェ・928のエクステリアデザインを担当したことで広く知られます。その後BMWに移り、Z1の革新的なデザインにも関与しました。1990年代に再びポルシェへ戻ると、993型・996型911、ボクスター(986)など、ブランド再生期の重要モデルのデザイン戦略を主導しました。彼のスタイルは「機能から導かれるクリーンな造形」と評価され、空力と美観のバランスを重視する点が特徴です。ポルシェの近代デザイン言語を確立した立役者として、現在も高く評価されています。
















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