フェラーリが示す2030年の未来図。電動化、情熱、クラフトマンシップが融合する次の時代へ

2026〜2030年に毎年平均4モデルの新車を発表し、2030年にはEV比率20%へ
スコープ1・2排出量を90%削減、電動化と持続可能性を両立するマラネロ発の挑戦
教育拠点「M-TECH アルフレード・フェラーリ」設立で次世代技術者育成にも注力

2025年10月9日、イタリア・マラネロで開催された「フェラーリ・キャピタル・マーケッツ・デー」で、フェラーリは2030年に向けた新たな戦略計画を発表しました。ブランド創設以来の哲学である「情熱」「革新」「クラフトマンシップ」を軸に、電動化、脱炭素、顧客体験の深化を一体的に進める壮大なビジョンです。

まず注目すべきは、製品戦略の進化と多様化です。フェラーリは2026年から2030年にかけて、年間平均4モデルの新車を発表する計画を明言。2030年のラインアップ構成は内燃エンジン(ICE)40%、ハイブリッド40%、電気自動車(EV)20%とし、技術中立を貫く構えです。初の量産EV「フェラーリ・エレトリカ」は2026年後半にデリバリーを開始予定。電動化時代においても“フェラーリらしさ”である情熱的な走り、官能的なサウンド、そして直感的な操作フィールを損なわないよう設計されています。開発責任者によれば、エレトリカは「感情を動かす電気自動車」であり、従来のスポーツカーとは異なる領域のドライビング体験を提供する新章の象徴です。

フェラーリは「Different Ferrari for different Ferraristi(異なる顧客に異なるフェラーリを)」という哲学を掲げ、すべての車を唯一無二の存在としてデザイン。すでに顧客車両の100%がパーソナライズ仕様で納車されており、今後はテーラーメイド体験をさらに強化。2027年には東京とロサンゼルスに新しいTailor Madeセンターを開設し、地域ごとの文化や感性に寄り添った特注体験を提供します。

顧客基盤の拡大も目覚ましく、現在アクティブクライアント数は約9万人。2022年比で20%増加し、コレクター層も45%が新規加入するなど、ブランドロイヤルティはかつてない高さに達しています。2022年以降、新たに32,300人の顧客がフェラーリブランドに加わり、同時にコレクターが保有する車両数も20%増加しました。フェラーリは「市場が求める数より一台少なく売る」という創業者エンツォ・フェラーリの哲学を堅持しつつ、独自の“希少性と絆”によってコミュニティを育てています。

技術開発においては、テクノロジー・ニュートラリティ(技術中立性)を基本方針に掲げています。V6、V8、V12といった伝統的な内燃エンジンの高性能化を進めつつ、ハイブリッドおよび電動パワートレインを同列に発展させる戦略です。すべてのパワートレインはマラネロのeビルディングで設計・製造され、高電圧バッテリー、eアクスル、インバーター、電動モーターなどの主要部品を自社開発。フェラーリ独自の制御ロジックとクラフトによって、走行性能と感性の調和を実現します。

さらに、リサイクルアルミニウム合金をボディ構造に採用し、バージン素材使用時と比較してCO₂排出量を75%削減。この取り組みはサプライチェーン全体のスコープ3排出削減にも寄与し、2030年までにスコープ3排出量を2024年比で25%削減する目標を掲げています。一方、工場運営におけるスコープ1・2排出量は、2021年比で2030年までに90%削減する方針。2024年にはガス式トリジェネレーション設備を停止し、再生可能電力への完全移行を進行中です。これに加え、太陽光パネルの新設やバイオメタン証書の購入を通じて、完全なカーボンニュートラル化を目指します。

ブランド体験の拡張も計画の柱です。フェラーリは現在、18万人のフェラリスティ(オーナー)と4億人のティフォシ(ファン)を有する世界的コミュニティを形成。その「包括的かつ排他的」なブランド性を、ライフスタイル領域にも展開します。2019年以降、ライセンス契約や流通網を整理し、戦略的パートナーとの協業でファッション、コレクション、体験型イベントを統合。2026年にはロンドン・ボンドストリートとニューヨーク・ソーホーに新たな旗艦店をオープンし、直営イベントやポップアップで体験価値を拡大します。マラネロおよびモデナのミュージアムも刷新され、ファンがブランドの“生きた歴史”に触れる機会を増やします。

さらに、フェラーリは未来の人材育成にも投資します。新たに設立される**「M-TECH アルフレード・フェラーリ」**は、フェラーリ、フィアット財団(Fondazione Agnelli)、モデナ県、エミリア=ロマーニャ州などが協力して運営する高度技術教育拠点です。マラネロに開設されるこのセンターでは、世界中の若手技術者やエンジニア志望者を対象に、自動車産業の最先端技術とクラフトマンシップの両立を学べる環境を整えます。フェラーリ・ファウンデーションを通じて支援するこの教育事業は、「知識こそが進歩を導く」というフェラーリの理念を体現するプロジェクトです。

フェラーリのエグゼクティブ・チェアマン、ジョン・エルカン氏は「フェラーリ・エレトリカは、技術とデザイン、職人技の融合が生む未来の象徴だ。M-TECHはその精神を次世代へつなぐための投資である」と述べました。CEOベネデット・ヴィーニャ氏も「フェラーリは伝統、レース、テクノロジーの交差点に立つ企業であり、創業者の精神が今も私たちを導いている」と強調しています。

2030年に向けて、フェラーリは電動化と情熱を両立しながら、“唯一無二の存在”であり続けることを誓いました。そのマラネロの赤い跳ね馬は、今もそして未来も、世界中のドライバーの心を熱く駆け抜けていくのです。

【ひとこと解説】
フェラーリ・エレトリカ」は、フェラーリ初の量産電気自動車として2026年後半にデリバリー開始予定の新モデルです。マラネロのeビルディングで開発された高性能電動パワートレインを搭載し、フェラーリらしい官能的な加速とドライビングフィールを実現。静粛性や使い勝手を高めつつ、ブランド哲学である「感情を揺さぶる走り」を電動化時代に継承するモデルで、同社の電動レンジ拡充の象徴と位置づけられています。

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