- カール・ユングのアーキタイプ理論を基に「Hero」「Rebel」「Creator」をブランドの核に設定
- キーワード「Focus」「Tension」「Purpose」でポルシェのデザイン指針を明確化
- 新型911ターボSに具体化されるデザイン哲学を提示
ポルシェはそのブランドデザインをさらに明確に打ち出すべく、新たなデザイン戦略を発表しました。フォルクスワーゲングループの中で進められるデザイン基準の再定義において、マイケル・マウアー副社長率いる「Style Porsche」は、スイスの心理学者カール・ユングが提唱したアーキタイプ理論を活用。そこから「Hero(英雄)」「Rebel(反逆者)」「Creator(創造者)」という3つの人格モデルを選び、ポルシェのブランドとデザインの本質を象徴させました。加えて「Focus(集中)」「Tension(緊張)」「Purpose(目的)」という3つのキーワードを抽出し、これらをデザイン活動の羅針盤としています。

初代デザイン責任者フェルディナンド・アレクサンダー・ポルシェは、911を生み出した人物として知られています。彼が追求したのは「フォルムと美の完璧な融合」であり、デザインを通じてブランドイメージを形成するという先見的な考えでした。マウアー副社長は「F.A.ポルシェの遺産と思想は常に我々の仕事の基盤にある」と強調。新しいデザイン基準の策定にあたっても、その精神が深く息づいています。
この戦略は単なるスタイリングの方向性ではなく、ブランド全体を統一する「コンパス」として機能します。ポルシェはデザインを通じて顧客体験すべてをつなぎ、製品だけでなくブランド世界を一貫性のあるものにしようとしているのです。
具体的な例として示されたのが新型「911ターボS」です。このフラッグシップモデルは「Hero(英雄)」を象徴する存在であり、勇気や力強さ、そして揺るぎない自信をデザインで体現しています。ワイドに張り出したフェンダー、迫力あるフロントエアインテーク、独立感のあるリアエンド、可変式の大型リアウイングといった要素は、すべてが「Focus(集中)」を示し、圧倒的なパフォーマンスを視覚的に訴えます。

一方で911ターボSは「Rebel(反逆者)」としての側面も持ちます。930型以来受け継がれるリアスポイラーは、常に既存の枠を超えようとする姿勢の象徴であり、伝統と革新の間にある緊張感=「Tension」を際立たせています。そして「Creator(創造者)」としての性格は、数々のディテールに宿ります。センターロックホイール、可変式のフロントリップ、アクティブウイングの拡張機構などは、単なる見せ場ではなく、すべてが機能と美を両立させる合理的かつ革新的な発想の結晶であり、「Purpose(目的)」の体現そのものです。

このように、新型911ターボSは3つのアーキタイプを巧みに織り込み、ブランド哲学を一台のスポーツカーに結実させています。マウアー副社長は「研ぎ澄まされたデザイン基準は創造の自由を縛るのではなく、むしろ発想の広がりを導く」と語り、ポルシェデザインの進化がブランド全体の成長に直結していることを強調しました。

英雄・反逆者・創造者という3つの人格を軸に、ポルシェはこれからもデザインを通じてブランドを進化させていきます。その哲学は新型911ターボSに端的に表現され、同時に未来のポルシェ像を示す象徴でもあります。単なる高性能スポーツカーを超え、デザインを通じて生まれるブランド世界――そこにこそ、ポルシェが掲げる「Focus」「Tension」「Purpose」の意味が込められているのです。
【ひとこと解説】
現在、ポルシェのデザイン部門「Style Porsche」には約150名のデザイナーとエンジニアが在籍し、伝統的なスケッチやクレイモデルと最先端のデジタルツールを融合させた開発を進めています。特に近年はゲーム業界のソフトウェアを取り入れるなどデジタル化を推進する一方で、手描きや立体模型による質感表現も重視。2014年にオープンしたヴァイザッハのデザインスタジオは、建築的にも透明性を重んじた設計がなされ、スタイリング部門と試験部門、コンセプト構造チームが密接に連携できる環境を整えています。ここから日々、次世代ポルシェの姿が形作られているのです。
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