地下に眠る珠玉のポルシェたちへ。建築家スティーブン・ハリスが創り上げた「理想のガレージ」へようこそ

名建築家スティーブン・ハリスが約50台のポルシェコレクションを収めるために設計した地下ガレージ付き新居
希少モデル「911 カレラRS 2.7」や「GT3 RS 4.0」など、軽量かつ競技志向のモデルが中心
建築理念とポルシェ哲学が融合した、“機能美”を極めた空間デザイン

アメリカの著名建築家スティーブン・ハリスが、自身のポルシェコレクションを収めるために建てた新居が、カリフォルニア州ランチョ・ミラージュに完成しました。サン・ハシント山脈を背景に、平屋建ての邸宅はガラス張りとフラットルーフが特徴。美しい自然に調和する洗練されたデザインですが、その真価は地上ではなく地下にあります。そこには約20台のスポーツカーが並ぶ、壮観なガレージが広がっています。

この地下空間は、ハリスが建築家としてのキャリアを注いで設計した「機能と美の融合体」です。地上階のガレージは法規制により3台分までしか認められないため、1基を車両用エレベーターに活用し、地下に車を降ろす構造を採用。駐車列は斜め配置とし、どの車も他を動かさずに出し入れできるように工夫されています。「ガレージは博物館ではない」と語るハリスは、すべての愛車を日常的に走らせるための設計を貫きました。

コレクションは、356カレラから最新の911 S/T(992)まで多岐にわたります。特に1973年製「911 カレラRS 2.7」や964世代の「カレラRS」、さらにペイント・トゥ・サンプルによるチャートリュース色の「911 GT3 RS 4.0(997)」、わずか52台のみ製造されたライトグリーンの「911 カレラRS 3.0」など、希少で軽量な競技仕様車が中心です。彼のガレージにはGT2(993)や2世代のGT2 RS(997/991)も揃い、まさにポルシェ・モータースポーツの進化を一望できる空間となっています。

ハリスがポルシェに魅せられたのは8歳の頃。叔父が所有していた356に触れた体験が原点でした。のちに父親の1967年式911 Sを運転し、大学時代にはその車で通学するほどの熱中ぶり。建築と哲学、美術を学び、48年にわたりイェール大学で教鞭を執る傍ら、自身の設計事務所を率いて成功を収めました。20年ほど前に再びポルシェへの情熱を燃やし始め、以後、緻密な審美眼でコレクションを拡充。現在は50台以上を所有しています。

「ポルシェは余計な装飾がなく、部品数も最小限。進化は遅いが精密で確実」と語るハリスの言葉は、自らの建築哲学にも通じます。機能を最優先し、風景と一体となる“必然の美”を追求する姿勢です。毎朝日の出前にポルシェで山道を駆け抜け、時には南米1万6,000kmを走破するラリーにも挑戦。彼にとって車は飾るものではなく、“使ってこそ生きる芸術”なのです。

「これは地下室付きの家ではない。ガレージが主役の家なんだ」と笑うハリス。建築と走りへの情熱が融合したその空間こそ、真の意味での“ドライバーズ・アーキテクチャ”と呼ぶにふさわしい場所です。

【ひとこと解説】
1973年に登場した「ポルシェ911 カレラRS 2.7」は、モータースポーツ参戦のために開発されたホモロゲーションモデルです。車両重量はわずか約975kgと軽量で、2.7リッター水平対向6気筒エンジンが210psを発生。特徴的な「ダックテール」型リアスポイラーは、空力性能を高める世界初の市販車装備として知られています。俊敏なハンドリングとバランスの取れた走行性能から、“理想の911”と称される伝説的モデルです。

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