- 1965年デビューのW108/109はSクラスの直接的前身、計38万台超を販売
- 1969年からV8+電子燃料噴射を採用、6.3Lモデルはスポーツカー級の性能
- 現在も2,100点以上の純正部品が供給され、クラシック市場で高値を維持
1965年、フランクフルト国際モーターショーでデビューしたメルセデス・ベンツW108シリーズ(250 S/250 SE/300 SE)は、モダンで機能的なデザインにより高級車の新基準を提示しました。翌年にはホイールベースを延長し、エアサスペンションを備えた300 SELが独立モデルW109として登場。これらは後のSクラスへとつながる重要な存在です。
スタイリストのポール・ブラックが手掛けた直線基調のデザインは、低いルーフラインと広いガラス面で開放感と優雅さを両立。ブランドを象徴するラジエーターグリルは角形に近い形状へ進化し、流行に左右されない普遍的な美しさを獲得しました。
技術面では全車ディスクブレーキを採用し、荷重時の安定を図る油圧式補正スプリングも装備。当初は直列6気筒を搭載していましたが、1969年に登場した300 SEL 3.5は新開発のV8 M116型(3.5L・ボッシュD-Jetronic電子燃料噴射)を搭載。さらに輸出仕様では4.5L V8を展開しました。加えて、1968年の300 SEL 6.3はメルセデス600譲りのV8(6.3L)を搭載し、スポーツカー並みの走行性能を誇る「パワーサルーン」の先駆けとなりました。このモデルは6,526台が販売され、ラグジュアリーとパフォーマンスを融合させた象徴的存在です。
1965~1972年の生産期間で、両シリーズは合計38万2,000台以上を販売。ラグジュアリーセダンとして当時最大の成功を収め、多くが現存しているのも特徴です。クラシック市場でも価値は上昇を続け、例えば280 SE 3.5(コンディション2)は3万ユーロを突破し、300 SEL 6.3(グレード1)は9万ユーロ超に達しています。
さらに、現在も約2,100点もの純正クラシックパーツが供給されており、シリンダーヘッドやカムシャフト、ピストンなど主要エンジン部品に加え、3種のフロントガラスも再生産。24時間以内に世界中へ配送可能で、半世紀を超えてもなお、W108/109はオリジナルの姿で走り続けられる環境が整っています。
このようにW108/109は、デザイン・技術・販売実績のすべてで時代を切り拓き、現行223型へと続くSクラスの礎を築いたモデルです。
【ひとこと解説】
ポール・ブラック(Paul Bracq)はメルセデス・ベンツでW108/109だけでなく、他の重要モデルのデザインも手掛けています。代表例は1963年発表の「メルセデス・ベンツ 600(W100)」で、同車の堂々たるフォルムと機能性を兼ね備えたスタイルは、ブランドを象徴するフラッグシップとして高く評価されました。また、W114/115系(1968年登場)の直線的でモダンなデザインも彼の作品で、量産車として大きな成功を収めています。さらに、メルセデス・ベンツの数々のコンセプトカーも手掛け、1960年代の同社デザイン言語を決定づけた存在です。
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