メルセデス・ベンツ、新型電動バン「VLE」プレシリーズ生産開始。ビトリア工場から始まる次世代バンの新時代

メルセデス・ベンツは2025年9月24日、スペイン・ビトリア工場において新型フル電動バン「VLE」のプレシリーズ生産を正式に開始しました。これは2026年前半に予定されているワールドプレミアと量産開始に向けた大きな節目となります。VLEは新たに開発された「VAN.EA(Van Electric Architecture)」と呼ばれるモジュラーかつスケーラブルな次世代バン用アーキテクチャを採用した初のモデルであり、メルセデス・ベンツの電動化戦略における旗艦的存在です。

この新世代モデルの生産開始に合わせ、ビトリア工場は大規模な刷新を実施しました。塗装工場やボディショップの新設に加え、アセンブリホールの近代化を進め、稼働中の生産ラインを止めることなく効率的な改修を達成。結果として、EV、ハイブリッド、そして最新世代の内燃エンジンを同じラインで柔軟に組み立てられる体制が整えられました。工場の生産ラインは「ドライブ・フレキシビリティ」を実現し、顧客ニーズに合わせて複数のパワートレインを自在に生産できる点が大きな強みです。

同工場では約5,000人の従業員が勤務しており、VLE生産準備の一環として160種類を超える研修プログラムを受講しました。新しい製造プロセスやデジタルツールの習得、最新IT標準への対応、さらには新素材の取り扱いに関する実践的トレーニングが行われ、従業員のスキルが飛躍的に向上しています。これらはシュトゥットガルトをはじめとする他のメルセデス拠点との協業によって進められ、国境を越えたチームワークが成果を支えました。

生産工程にはAIやデジタルツインといった最先端技術が積極的に導入されました。これにより、仮想空間上で製造ラインのシミュレーションを繰り返すことが可能となり、効率性と品質を事前に最適化。さらに、VLEはメルセデス・ベンツの次世代統合OS「MB.OS」を初めて量産バンに搭載するモデルでもあり、デジタル面においても新時代の幕開けを象徴しています。

環境面でもビトリア工場は先進的です。2013年以来、全電力を再生可能エネルギー由来に切り替え、2024年には自社太陽光発電設備を導入。加えて、地熱エネルギーを利用した暖房や、塗装工程で発生する廃熱の再利用を行うなど、カーボンニュートラルな生産体制を確立しています。この持続可能性の高さは、世界的に厳しさを増す環境規制に対応するだけでなく、メルセデス・ベンツのブランド価値を支える重要な要素です。

新型VLEそのものも注目の存在です。「セダンの走行性能」と「MPVの多用途性」を兼ね備えたとされ、最大8人乗りの広いキャビンを備えることで、家族向けのレジャーから高級シャトルまで幅広い用途に対応可能です。実際の開発段階では、複数の過酷なテストを通じて性能が検証されました。アルプス横断の実走試験ではわずか15分の充電休憩を2回行っただけで長距離走破を達成。風洞実験では空力性能の記録を更新し、イタリア・ナルドの高速テストコースでは敏捷性と高速安定性を実証。さらに北極圏での試験では、氷雪下でも十分な航続性能と信頼性を示しました。

歴史あるビトリア工場は1954年に操業を開始し、2024年に70周年を迎えました。現在は敷地面積87万㎡のうち66.5万㎡を生産エリアとし、Vクラスやヴィトー、eヴィトーなどを生産しています。2024年には拡張工事の起工式も行われ、2026年以降はVAN.EAに基づく中型EVバン、さらにはVAN.CAと呼ばれる内燃アーキテクチャに基づく車両も生産予定です。

メルセデス・ベンツ・バン部門トップのトーマス・クライン氏は「VLEは新しい時代を切り拓くモデルであり、我々はこれを記録的な速さで量産体制に持ち込んだ。革新的なデジタル手法を駆使し、効率と品質を両立させた成果だ」と述べています。また、ビトリア工場責任者のベルント・クロットマイヤー氏も「我々のチームは短期間で準備を完了し、新しい時代に対応できる柔軟性を証明した」と強調しました。

新型VLEは2026年前半に世界初公開が予定されており、メルセデス・ベンツ・バンの未来を象徴するモデルとして期待を集めています。ビトリア工場から始まる新たな挑戦は、同社の電動化戦略と持続可能な生産の両立を体現し、商用バン市場に新基準を打ち立てることになるでしょう。

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