メルセデスが切り拓く“充電革命”。実験車「ELF」で描く未来の電動モビリティへ

実験車「ELF」は、メガワット級急速充電からワイヤレス給電まで、次世代充電技術を集約
双方向充電(V2G/V2H/V2L)により、車両が家庭や電力網を支えるエネルギー装置に変化
最大900kW充電性能と“仮想エネルギー口座”構想で、利便性と環境価値を両立

メルセデス・ベンツが公開した実験車「ELF(Experimental-Lade-Fahrzeug)」は、単なるEVではなく、“未来の充電体験”を実証するモバイル研究ラボです。電動モビリティを「走る」だけでなく、「つなぐ」存在へと進化させることを目的に、車両・インフラ・エネルギー管理を統合したホリスティック(全体最適)な開発アプローチを採用しています。

最大の特長は、デュアル急速充電システムの搭載です。まず、商用車用に開発されたMCS(メガワット・チャージング・システム)を採用し、1,000Aを超える電流を扱うメガワット級の充電性能を検証。これにより高電圧バッテリーや冷却技術の限界を探り、将来の長距離EVやフリート車両開発に応用します。一方で、乗用車規格のCCS(コンバインド・チャージング・システム)**も搭載し、最大900kWという驚異的な出力を実現。これは100kWhの電力をわずか10分で充電できる能力に相当します。

さらに、メルセデスは欧州充電機器大手アルピトロニック社と共同で、1,000A対応の高出力充電ステーションを開発。これにより、コンセプトモデル「AMG GT XX」はわずか5分で約400km分(WLTP換算)の電力を充電可能となり、1,041kWという記録的ピーク出力を達成しました。こうした研究成果は今後、同社の専用高速充電拠点「Mercedes-Benz Charging Parks」に展開され、“給電時間=給油時間”という新時代を実現します。

Mercedes-Benz ELF 2025: Laden von Elektrofahrzeugen neu gedacht Mercedes-Benz ELF 2025: a novel approach to charging electric vehicles

次に注目されるのが**双方向充電技術(V2X)です。ELFはAC/DC両方式で電力を「受ける」「戻す」ことができ、家庭(V2H)、建物(V2B)、電力網(V2G)、機器(V2L)への給電を実証。70〜100kWhの高電圧バッテリーで、一般家庭の電力を最大4日間まかなえる性能を持ち、停電時の非常電源や太陽光発電との連携にも対応します。家庭内の電力管理と連動すれば、年間約500ユーロ(約8万円)の電気代削減、約1万km分の“無料走行”も可能とされています。

Mercedes-Benz ELF 2025: Laden von Elektrofahrzeugen neu gedacht Mercedes-Benz ELF 2025: a novel approach to charging electric vehicles

さらに将来的には、**「仮想エネルギー口座」**という概念も導入予定。自宅の太陽光発電や充放電によって得た余剰電力をデジタル口座に蓄積し、外出先のメルセデス充電ステーションで「エネルギーポイント」として利用する仕組みです。これによりユーザーは電力コストを柔軟に最適化し、電力市場変動への依存を減らすことができます。

また、非接触充電(誘導式)や自動接続式(導電式)充電の研究も進行中です。前者は地面に設置したコイルから磁気共鳴で最大11kWを送電し、ケーブルを使わない“ハンズフリー充電”を実現。後者は車体下部の端子で接触し、同じく11kWで安全かつ効率的に充電可能です。いずれも狭い駐車場やバリアフリー環境に最適で、外観上もスマートなインフラを提供します。

さらにメルセデスはロボットアームによる自動接続式高速充電も研究中で、ケーブル径の大きなメガワット級給電を人の手を介さず安全に行うことを目指しています。これらの技術群は同社の「MB.CHARGE」エコシステムに統合され、車両・インフラ・クラウドが連携する“完全自動エネルギー体験”を実現します。

ELFは単なるプロトタイプではなく、持続可能な社会におけるエネルギーとモビリティの融合体です。メルセデス・ベンツはこの実験車を通じて、充電を“待つ時間”から“エネルギーを共有する体験”へと進化させようとしています。

【ひとこと解説】
ELF(Experimental-Lade-Fahrzeug)は、ドイツ語で「実験的充電車両」を意味するメルセデス・ベンツの開発プロジェクト名です。英語では“Experimental Charging Vehicle”と訳され、電動車の充電技術を総合的に研究・検証するための実験車として位置づけられています。急速充電、双方向充電、誘導・導電式充電など、将来のEV充電インフラを包括的に検証する“走る実験室”として設計されています。

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