フォード、50億ドル投資で米国EV戦略を加速。新プラットフォームと革新的生産方式で2027年に新型EVピックアップ投入

  • ルイビル工場とBlueOvalバッテリーパークに総額約50億ドル投資、約4,000人の雇用創出
  • 新「フォード・ユニバーサルEVプラットフォーム」で低価格・高品質なEVを量産可能に
  • 第1弾は約3万ドルからのEVピックアップ、2027年発売予定、マスタング並みの加速性能

フォード・モーターは2025年8月、米国での電動化戦略を大きく前進させる新たなプロジェクトを発表しました。総額約50億ドルを投資し、ケンタッキー州ルイビル組立工場およびミシガン州ブルーオーバル・バッテリーパークを拠点に、新世代のEVプラットフォームと生産方式を導入します。この計画により約4,000人の雇用を新規創出・確保し、米国内のサプライチェーンを強化するとともに、グローバル市場に向けた次世代EVの量産体制を築く狙いです。

フォードが発表した「フォード・ユニバーサルEVプラットフォーム」は、低価格かつ高品質なEVを大量生産可能にする基盤です。従来モデルと比較して部品点数を20%削減、ファスナーも25%削減され、工場内の作業工程は40%少なく、組立時間は15%短縮されます。配線ハーネスは約1.3km短く、重量は10kg軽量化されるなど、効率性と合理性を徹底追求しました。

さらに搭載されるLFP(リン酸鉄リチウム)角形バッテリーはコバルト・ニッケル不使用で環境負荷を抑え、耐久性とコスト削減を両立。電池パック自体を車体床面の一部とすることで剛性を高め、低重心化による操縦安定性や静粛性の向上、広い室内空間の確保にもつながっています。これにより、5年間の所有コストは3年落ちの中古テスラ・モデルYを下回るとフォードは見込んでいます。

このプラットフォームを用いた最初の製品は、中型4ドアEVピックアップで、2027年に市場投入予定です。米国ケンタッキー州ルイビル工場で生産され、米国内だけでなく輸出も視野に入れています。想定される価格は約3万ドルと手の届きやすい設定で、電動車ながら「マスタング・エコブースト並みの0-60mph加速性能」を誇ります。実用性にも優れ、最新トヨタRAV4を上回る室内空間を確保。前部のフランク(フロントトランク)と荷台を備え、サーフボードなどの大型荷物も容易に収納可能です。電池パックの低重心化と新シャシー設計により、高い操縦安定性と快適性を両立。まさに「楽しく、便利で、手頃なEV」というフォードの新しいビジョンを体現するモデルになると期待されています。

フォードは製造方法も大きく刷新しました。従来のベルトコンベア式「流れ作業」に代わり、「アセンブリツリー」と呼ばれる新方式を採用。車体前部・後部・バッテリー部の3つを並列でサブ組立し、最後に統合する仕組みです。この方式により、組立ラインの複雑さが大幅に軽減され、最大40%の作業時間短縮を実現。さらに大型アルミ一体鋳造部品の採用で部品点数を削減し、作業者への負担を軽減。部品は必要な工具やスキャナーと共に「作業キット」として供給され、正しい向きで配置されるため作業効率や品質も向上します。人間工学に基づいた工程改善により、従業員の負担を軽減しつつ品質を高める仕組みが組み込まれています。

今回のプロジェクトではルイビル工場に約20億ドルを投資し、2,200人の雇用を確保。工場は約52,000平方フィート拡張され、最新のデジタルインフラを導入。世界のフォード工場の中でも最速・最多アクセスを誇るネットワークを備え、品質管理を強化します。さらに、ミシガン州のBlueOvalバッテリーパークでは約30億ドルを投資し、新開発のLFP角形バッテリーを生産予定。これにより国内調達比率を高め、米国内のサプライチェーン強化にもつながります。ケンタッキー州のアンディ・ベシア知事は「州史上最大級の投資であり、フォードとケンタッキーのパートナーシップはこれまで以上に強固になる」と述べ、州のEV関連産業の中核拠点としての地位を確立すると期待を寄せました。

CEOのジム・ファーリーは「これまで米国メーカーは低価格車への挑戦で失敗を繰り返してきた。今回は中途半端ではなく、持続的で収益性のあるEVビジネスを築く」と強調。カリフォルニアに設けた少人数のスカンクワークスチームに自由な発想を委ね、従来の生産方式を根本から見直すことで「T型フォード」以来の革新を実現しようとしています。

フォードの新プラットフォームと生産システムは、単なるコスト削減や効率化にとどまらず、走りの楽しさ、利便性、持続可能性を兼ね備えたEVを量産する仕組みです。2027年に登場する中型EVピックアップを皮切りに、多様な車種展開を視野に入れており、米国市場のみならず世界市場における競争力強化を目指しています。今回の取り組みは、フォードが米国自動車産業の伝統を受け継ぎつつ、EV時代にふさわしい新たな製造・製品哲学を打ち立てる挑戦といえるでしょう。

【ひとこと解説】
LFP(リン酸鉄リチウム)角形バッテリーは、安定性と耐久性に優れた二次電池として広く用いられています。コバルトやニッケルを含まず、資源面で持続可能性が高く、発火リスクが低いため高い安全性を実現。またサイクル寿命が長く、充放電を繰り返しても劣化が少ないのが特長です。角形セル構造はパッケージ効率が良く、冷却や配置設計が容易で、自動車や定置型エネルギー貯蔵システムに適しています。エネルギー密度はやや低いものの、低コストかつ信頼性が求められる用途で強みを発揮します。

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