ポルシェが生んだ“走りの実験室”。新ロードシミュレーション試験台で振動解析を革新!

- 新開発「FaSiP」試験台で実走行を忠実に再現、最大250km/hでの試験が可能
- 早期段階からNVH(騒音・振動・ハーシュネス)を最適化し開発コストを削減
- タブレット操作とAI解析で開発を自動化、快適性と走行性能を両立
ポルシェは2025年、ヴァイザッハ開発センターに新しいロードシミュレーション試験台「FaSiP(Fahrbahn-Simulations-Prüfstand)」を導入しました。これは実際の道路環境を極めて高精度に再現し、車両の振動特性や快適性を初期段階から検証できる画期的な装置です。
このFaSiPでは、車両の4輪が独立したベルトユニット上で走行し、各ユニットが0.4mm厚のスチールベルトを電動モーターで駆動します。速度変化によって縦方向の力を再現し、さらにサーボ油圧シリンダーが上下方向(±40mm)の動きを発生。これにより、マンホールや舗装の継ぎ目といった路面の細かな凹凸まで再現可能です。最大速度は250km/h、周波数は0〜50Hzまで対応し、スポーツカー開発に不可欠な高負荷条件もカバーします。

NVH(Noise, Vibration, Harshness=騒音・振動・ハーシュネス)解析では、スポーツカーとラグジュアリーサルーンそれぞれに求められる「動的指紋(ダイナミック・フィンガープリント)」を実現するための微調整が行われます。試験中、エンジニアはタブレット操作で各軸を個別に制御し、特定の振動要因を瞬時に特定することができます。例えばリアハッチの共振音が発生した場合、吸収材(アブソーバー)を装着して即座に改善策を検証できます。
この設備の最大の利点は、試作車の段階から試験が可能なことです。従来のように完成車を待つ必要がなく、単一のモジュールやアクスル単体での「Hardware-in-the-Loop(HiL)」テストも実施可能。これにより設計変更の自由度が高まり、コストや開発期間を大幅に短縮できます。
また、FaSiPは既に量産車両の「トラブルシューティング(Firefighting)」にも活用されています。量産直前に発生したノイズ問題でも、現車を再現環境で試験し、振動源を周波数ごとに解析することで迅速に原因を特定できます。こうした精密な分析が可能なのは、車輪が実際に回転した状態で振動を再現できる世界でも数少ない設備だからです。
今後はAIによる快適性評価も進化します。ポルシェ・エンジニアリングは、FaSiPで取得した加速度データをもとに学習したニューラルネットワークを活用し、車両を無人で自動試験。AIが快適性を定量評価し、最適なサスペンション設定を導き出す構想です。
FaSiPは、仮想開発と実試験を融合した「ハイブリッド開発」の要となる装置です。ポルシェが追求する“ドライバーの感性に響く走り”を、デジタル技術と実測の両輪で支える――それが、この新たな“走りの実験室”の真価なのです。
【ひとこと解説】
ハーシュネス(Harshness)とは、自動車走行中に感じる「不快な衝撃感」や「荒さ」を指す言葉で、NVH(騒音・振動・ハーシュネス)評価の一要素です。たとえば、段差を乗り越えた際の突き上げ感や、エンジン・路面から伝わる微振動などが該当します。これは単なる振動の大きさではなく、ドライバーが主観的に「硬い」「ざらつく」と感じる質的な要素であり、車の快適性や高級感に大きく影響します。















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