伝説の再現。ポルシェ911 S/T、1972年の名車と2024年の再解釈

  • 1972年ル・マンGTクラス優勝車「911 2.5 S/T」がフルレストアされ復活
  • 現代版911 S/Tは4.0L自然吸気フラット6、525PS、車重1380kgで伝統を継承
  • 両モデルの共通点は「ライトイエロー(コード117)」の特別塗装

ポルシェ911 S/Tは、自動車史における伝説的な存在として再び注目を浴びています。1972年のル・マン24時間レースでGTクラス優勝を飾った「911 2.5 S/T」と、その精神を現代に受け継ぐ「2024年版911 S/T」が一堂に揃い、過去と現在が鮮やかに交錯する特別な物語が描かれました。両モデルをつなぐ最大の象徴は、鮮やかな「ライトイエロー(コード117)」のボディカラーです。この色は長らくポルシェの標準カラーパレットから姿を消していましたが、今回の復活によって改めてその特別さが強調されています。

まず、オリジナルの「911 2.5 S/T」について振り返ると、その歴史は波乱に満ちています。1972年、ゼッケン41をまといル・マンで輝かしい栄光を掴んだこの車両は、その後アメリカへ渡り、サンフランシスコ近郊の草レースなどに参戦しました。しかし1975年のレースを最後に記録は途絶え、車両は行方不明となります。やがて2008年、廃墟同然となった姿で納屋から発見され、奇跡の再会を果たしました。2013年にはスイスのコレクターがこの希少な車両を救出し、ポルシェ本社のクラシック部門に託します。

修復作業は、まさに職人技の結晶でした。ボディは徹底的に分解・塗装剥離され、フレームを専用治具で矯正。欠損部品は当時の設計図や金型を基に新たに製作され、1000時間以上に及ぶ手作業で復元されました。さらに最新の電着塗装による防錆処理も施され、往年の姿を保ちながら耐久性も強化。約2年半の歳月を経て、2016年に完全復元された車両は、新車同然の姿でオーナーに引き渡されました。ボディはもちろんライトイエローに仕上げられ、スポンサーのデカールやゼッケン41も当時のまま再現され、再び「時を超えたレーシングカー」として蘇ったのです。

一方、現代に誕生した「911 S/T」は、ポルシェの「ソンダーヴンシュ(特注)」プログラムによって製作された一台。オーナーの希望により、1972年モデルと同じライトイエローで塗装されました。この色は明るいがゆえに隠ぺい力が低く、特にカーボン製パネルを多用する現代モデルでは塗装が困難でした。しかし熟練の職人による丹念な手作業で見事に仕上げられ、独自の存在感を放っています。さらに、ダークシルバーのマグネシウム鍛造ホイール、ブラックキャリパー、ブラックインテリアが組み合わされ、レーシーで引き締まった印象を演出しています。

その走行性能は、現代の技術を結集した純粋なドライビングマシンとして仕立てられています。4.0リッター自然吸気フラット6エンジンは525PSを発揮し、9000rpmまでスムーズに吹け上がる特性を備えています。車重はわずか1380kgに抑えられ、軽快なハンドリングと強烈な加速性能を実現。さらに6速マニュアルトランスミッションが組み合わされることで、ドライバーと一体となった操る歓びを存分に味わうことができます。燃費はWLTP基準で13.8ℓ/100km、CO₂排出量は313g/kmと現代の基準では大きいものの、それを凌駕する走行体験を約束するモデルです。

クラシックの完全復元と現代的な再解釈。この2台の911 S/Tは、ポルシェが築いてきた伝統と未来への挑戦を同時に体現しています。ソンダーヴンシュ・プログラムは、歴史的なモデルを忠実に蘇らせる一方で、最新の量産車をベースに顧客の夢を具現化する柔軟性を備えています。その根底にあるのは「品質に妥協しない」という姿勢であり、すべての特注車が量産車と同等の品質基準と保証を持つことです。

1972年の栄光から半世紀以上を経て、911 S/Tは再びスポットライトを浴びました。1台は過去を忠実に蘇らせた「時の証人」、もう1台は現代の技術で再構築された「未来の伝説」。両者が並び立つ姿は、ポルシェの哲学そのものを映し出し、ブランドの持つ普遍的な魅力を改めて証明しています。

【ひとこと解説】
911 2.5 S/Tは、1972年に登場したレース専用モデルで、ル・マン24時間レースGTクラスで優勝を果たした名車です。2.5リッター水平対向6気筒エンジンは約270PSを発揮し、軽量化された車体と組み合わせ最高速度は250km/h超を実現しました。ワイドフェンダーや大径ホイール、強化ブレーキを備え、長時間の耐久レースでも安定した走行性能を発揮。わずか数十台のみ生産された希少モデルで、ポルシェのモータースポーツ史における重要な存在です。

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