BMW、デブレツェン新工場でBMW iX3量産開始へ。再エネ100%とAI活用で次世代iFACTORYを体現

  • BMWグループ初、通常操業で再生可能エネルギー電力のみを利用し化石燃料ゼロを実現
  • ペイントショップの電動化で車両1台あたり約80kg CO₂eに、従来比3分の1へ削減
  • デジタルツインやAI品質管理を導入し、第6世代高電圧バッテリーも現地で組立

BMWグループは2025年10月末、ハンガリー・デブレツェンに建設した新工場でBMW iX3の量産を開始します。新工場は同社のグローバル生産ネットワークにおいて最も革新的な拠点と位置付けられ、「BMW iFACTORY」という次世代生産コンセプトを全面的に体現しています。

最大の特長は、通常操業において化石燃料を一切使用せず、再生可能エネルギー由来の電力のみで稼働する点です。特にエネルギー消費が大きいペイントショップは従来ガスを使用してきましたが、本工場では電力加熱を採用。これにより年間最大12,000トンのCO₂排出を削減でき、車両1台あたりのCO₂e排出量は約80kgに抑えられます。これは従来比で約3分の1、さらに工場単体で見れば約90%の削減を達成する画期的な成果です。

エネルギー供給面でも先進的です。敷地内に50ヘクタールの太陽光発電施設を設置し、工場の電力需要の約4分の1を賄います。余剰電力は1,800㎥・130MWhの熱エネルギー貯蔵システムに蓄え、休日や非稼働時に確保したエネルギーを需要ピーク時に供給する仕組みを導入。さらに圧縮空気供給や乾燥炉、冷却システムからの廃熱回収を活用し、水循環の予熱に再利用するなど、複合的な省エネ策が組み込まれています。

工場建設にあたっては「バーチャルファクトリー」を用いたデジタルツイン技術が駆使されました。2023年3月に仮想空間で生産開始をシミュレーションし、工程の最適化や複雑性の削減を事前に検証。その結果、約1,000台のロボット配置を最適化し、生産ラインの効率を大幅に高めることに成功しました。AI品質管理プラットフォーム「AIQX」も導入され、ライン上での自動検査やリアルタイムフィードバックを実現。将来的には製造中の車両自体がIoT参加者となり、自己診断や情報共有を行う仕組みも構築されます。

物流システムも徹底して効率化されています。建物の「フィンガー構造」により、約80%の部品が直接ラインに供給可能。加えて全電動化された自律搬送車やスマートトランスポートロボットが高電圧バッテリーや小部品を運搬し、データベースを統合することで物流情報を即時分析できる体制を整えています。

またデブレツェン工場は、BMWが自社開発した第6世代高電圧バッテリーの量産を世界で初めて行う拠点でもあります。AIやデータ解析を駆使したゼロ・ディフェクト(欠陥ゼロ)体制を確立し、パイロット工場で検証したプロセスを現地に展開。「local for local」の原則に基づき、現地での組立を完結させることで効率性と短距離物流を両立しています。

現在、同工場には2,000人以上の従業員が在籍。中国、南アフリカ、メキシコ、米国、ドイツなど各国の工場から知見を集約する「ネットワークプラント」として機能しており、相互に技術や経験を共有する体制が整えられています。これによりデブレツェン工場で培われたノウハウは世界各拠点に波及し、全体の競争力を高める効果が期待されています。

BMW iX3の量産開始は「ノイエ・クラッセ」時代の幕開けを告げるものであり、同技術は2027年までに40以上の新モデルや改良モデルに展開される予定です。持続可能性、デジタル化、効率性を兼ね備えたデブレツェン新工場は、BMWの未来を象徴する拠点となります。

【ひとこと解説】
フィンガー構造とは、自動車工場の建屋レイアウト方式の一つで、複数の指のように伸びた棟(フィンガー)がメイン組立ラインに接続する形状を指します。これにより部品の搬入経路を最短化でき、各棟で準備された部品を直接ラインへ供給可能です。BMWライプツィヒ工場などで採用され、物流効率の向上、搬送時間やコスト削減に寄与します。デブレツェン新工場では最適化版が導入され、約80%の部品を直接組立ラインに届けられるのが特長です。

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