- ファントムは1925年誕生から100年、100か国以上で愛される究極のオーダーメイドモデル
- コート・ダジュールやロンドンなど歴史的な地と人が開発を後押し、文化的象徴へ成長
- 初の電動試作車「102EX」をはじめ未来志向の挑戦も、次なるビスポークモデルへ継承
ロールス・ロイスの頂点に位置する「ファントム」は、1925年の誕生から2025年で100周年を迎えました。現在では6大陸、100か国以上にオーナーを持ち、一台ごとに顧客の趣向や使用環境に合わせて製作される、まさに究極のオーダーメイド車です。その歩みは単なる自動車の歴史にとどまらず、世界各地の文化や人々によって形作られ、ファントムを「移動する芸術作品」として確立させてきました。
創業者の一人、サー・ヘンリー・ロイスが冬の拠点とした南仏コート・ダジュールのヴィラ・ミモザは、その象徴的な地のひとつです。ここで初代ファントムの開発が進められ、ロイスは大西洋を越えた高速移動や曲線美あふれるリビエラの道路を舞台に、性能と快適性を徹底的に磨き上げました。その成果は「圧倒的なパワーを容易に操る体験」として結実し、現代モデルにまで受け継がれています。さらにこの地はデザイン面でも影響を残し、内装に用いられる「カナデル・ウッドパネル」や、隣接する庭園の竹林に着想を得た「デュアリティ・ツイル」素材などに反映されています。
一方、夏の拠点だったサセックス州ウェスト・ウィッタリングも重要です。ロイスはここで工房を構え、400マイルを超える往復を繰り返して新部品を自ら確認し続けました。自動車工場が遠く離れたダービーにあっても、自らの眼で全てをチェックする姿勢は徹底しており、その完璧主義がブランドの精神に刻まれています。また農業や絵画といった趣味にも同じ執念を注ぎ、彼が描いた風景画は現代のデザイナーにとっても創造の源泉となっています。

ファントムにとってロンドンは精神的な本拠地といえます。1905年にチャールズ・ロールズがサヴィル・ロウ近くのコンジット・ストリートに開いたショールームは、英国の上流階級が集う場所としてブランドの存在感を高めました。その建物は2010年、英国歴史財団によりブルー・プラークで顕彰されています。また1990年代末には、ハイドパーク北側の旧銀行ビル「ザ・バンク」に秘密のデザインスタジオを設置。イアン・キャメロン率いるチームが「RR01」という極秘プロジェクトに挑み、2003年に誕生した新生ファントムの原型を描きました。デザインの核となったのは1930年代のファントムIIで、そこから生まれた「ワフト・ライン(船が水面を滑るような曲線)」は現代のモデルにも息づいています。

2003年のグッドウッド初代ファントムは、納車直後にオーストラリア大陸を横断する4,500マイルの旅に挑みました。新世代の象徴として世界中にその存在感を示したこの車両は、100周年の2025年、再び英国本社に戻り、熟練エンジニアによる詳細な点検を受けています。まさに過去と現在をつなぐ生きた証人といえるでしょう。
また2011年には、電動化の未来を模索する試みとして「102EX(ファントム・エクスペリメンタル・エレクトリック)」が公開されました。市販化はされなかったものの、完全電動のファントムとしてブランド初の試作車となり、今日の電動化戦略を切り拓いた歴史的な存在です。ロールス・ロイスが単なる伝統にとどまらず、未来を見据えた技術革新に挑む姿勢を象徴しています。

ファントムはこれまで、王族や国家元首、文化人や産業界のリーダーに選ばれ、時に「移動するステートルーム」として、また「舞台」や「ギャラリー」として人々を魅了してきました。100周年を記念する2025年には、その豊かな遺産を反映した特別なビスポークモデルが登場予定であり、ファントムはこれからも最高峰のラグジュアリーと革新の象徴として進化を続けていくのです。
【ひとこと解説】
ワフト・ラインとは、ロールス・ロイス・ファントムのデザインを象徴する独特のボディラインです。1930年代のファントムIIのコーチビルド車両に着想を得ており、船が水面を優雅に滑走する姿を思わせる緩やかな曲線を描きます。車体下部から後方へ流れるように上昇するこのラインは、視覚的に軽快さと力強さを両立させ、静かで圧倒的な走行感、いわゆる「ワフティング(魔法の絨毯のような乗り心地)」を視覚的に表現したものです。
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